ヒメシジミのいろいろ詩日記

詩人松尾真由美の詩作品のみのブログ。蝶のようにひらひらと詩のことばを綴っていきたい……

詩【爽やかな明度において】

整然と
事物は置かれ
保証のない地に
重みが加わる
このひかりは正しいまばゆさ
香ってくるような失速と
ならびあう文字の脈
日常からほんのすこし
離れたところで
果実はゆらぎ
無風であっても
風にまかれ
そんな容器が
河口を
放つ
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詩【鋲と崖と花芯の微笑】

左から
風があり
ゆるやかに巻き込まれる
薄紅色の濃霧のような
淡雪のはかなさに
たとえばうごめく車輪の炎の
一瞬だけの傷を見る
晴れやかな鋲と崖
さだまらない
仕組みの
真昼に
ころがる花芯が
ほほえんで
いつも
賭の位置
風上も風下も

詩【きららかな夢の仮構の】

透明な
波のよう
主語を隠して漂うものの
おぼつかない小さな赤い実
集まってさざめきあって
身軽にはなれないゆえ
ときおり甘美で硬質なガラスの夢を
見ることで癒される
あの星は偽りの
崇高を無理にたもって
それはまなざしが作りだす辺地の機微だとしても
迷妄のまま育まれる拡大された鍵穴はさらに
腐蝕の溝をふかめつつ
単純な純粋に
焦げた笑い
重複する
明日の姿も
すべて同じに
強引な流れのなか
事態は終局するのだろうか
どこか哀しい空費の石
転がって
転がりつづけて
方位のない通路である

詩【ひそやかな陰影から】

ざわざわざわざわ
盗掘された血の色の
ささやかなざわめきに
とても透明で硬質な
ある重たいもの
ざわざわざわざわ
騒いでいる
安息に抗って
氷の面がひろがって
針と糸がつながるから
ごまかしと偽りとの影とひかり
しどけない迷妄の明るさがわびしい
ただそのままの陥没として
ちいさな実の質量
増えたぶんだけ
急所になる

詩【異和のあたりの交点から】

さしずめ
架橋の
腐乱
襞の多さのあの想いを
時を経るだけ育むことの
ほそく重たい
根の陥穽
つりあわない疾患の上部と下部と半身と
うすい接点が濁っている口元と
反映が吹きだまる系譜から
習慣ゆえに
なじむ悲惨が
あからさまにふるえている
見られている気配にかこまれ
枯れた葉は枯れていて
生気のない修飾に
ひたすら近づき
そして
ほら
迷路に没する

詩【遠い風景、近い影】

投影される
うすいものを
私物のように感じていく
遠近感のない関係の
枝の匂い
草の隠喩に
静かな慈しみをこめつつ
化合された日常の機微において
風景は変わりつづけ
不透明な戸口
生気だけに
もたれている

詩【色の気配と風景と】

濃密な
光沢すら
ながれゆく風であって
留まらないものの行方を
窓の角度が
指し示す
雪と空
または雲に
夜明けのような虚構の陰影
あざやかに浮き上がり
どこかしら
倒立している
あの位置
そして
この窪み
見定めてはいないけれど

詩【向こう側の瞳の思惟を】

円い地を
なぞっていけば
懐かしくも並列な感知の瞳
あのふたつは寄り添い合って
なにを見つめているのだろうか
金の輪の昂揚が
おそらく被さる水平線の
ゆたかな重みを示している
ありふれた時の流れと
瓦解を迎えた時の湿度を
ただ臓腑に刻んでいき
捜すべきものを待っているような
待機の総量はすべて
修辞を疑い
修辞に果てる

詩【正しく判読しない文字】

歩くように
広がっていく
その死者の呻きのようなもの
ひたすらな没頭は酩酊であるのだから
あわただしく恋慕をふくらませ
夜ごと求める声と影と骨の感触に
浸されることの偏狂と辺境に
清らかな像を置いて
かしずけばいい
とうに涸れた
涙にゆれて

詩【やわらかな線として】

出口と入口
区切られない経路があって
絡まりあう脈と実の部位
どちらともなく未完のまま覆われる光により
遊泳のような曲線を抱えきれないこの両手と両腕は
いざないの原因でもあるのだから
したたかな煩悶のごとく
砦は作り直される
織られゆくことの愉悦
またはきつく結べない朝と夜と昼
転がり落ちるかもしれない
変奏から変奏への
楽曲の不均衡を
親しい石の瓦解とみて
尖ったものと
円いもの
とても些細な異和がこすれ
大きくなる茎の揺らぎ
振り幅が課されれば
一瞬だけ
風を感じる

詩【揺れることのひとつの形】

微風のように
ささやかな囁きが
手に触れて足に触れて
寒気と暖気のあいだをぬい
昼も夜もなくなるところ
霧の遅延のあらわな訴えなのかもしれない
とどまらずに流れていく微かな鼓動の渦
どこか透明な枝を加工しつつ
練り上げる曲線の歪み
分け入っても
分け入らなくても
変わらないものとして
未完のまま完結している
修正をほどこす影はすでに消え
容器に満ちる脈の家を
仰いでみて
ゆすってみて
異形も装置のひとつ
たおやかな永続が
ただあればいい

詩【静けさのような角度】

外と内
境のきわ
ぬくもりと透徹に
つらなる課題があったとして
たとえば光はこのように茫洋と
何もかもを猶予に臥す
笑いもせず
奪われもせず
あれは肌のみどり
こちらを覗いて
ほほえんで

詩集『花章ーディヴェルティメント』(思潮社)書評

松尾真由美詩集『花章ーディヴェルティメント』


花章1


装幀 中島浩 写真 森美千代 詩 松尾真由美

これだけ写真が大きいと帯文が読めるのでビックリ。
詩集中の作品1篇(「まなざしと枠の交感」)をそのまま掲載しております。

詩人の和合亮一さんが書評を書いて下さっています。 
クリックしてみて下さい→毎日新聞 和合亮一書評

詩【残響がめぐる地の点】

遠くから
さまざまな声が聞こえ
あれはいつのことだったろう
季節の変わり目はめまぐるしくやってきて
黒も赤も色褪せた杭となるつめたい風に
吹かれてみて耳を澄まし
驚くほど渇いている
景色の邪気
見知らぬ額
花は枯れ
その儚さだけうるわしく
地は交わってはいないのだ
炭化の白い野にまみれ
掘りこんでいけば
指の先の
汚辱となり
浮薄の響きに応答して空はおもたく晴れあがる
塞いでしまえばいいのだろう
ひどく任意な掌をかざし
狭ぐるしい混沌に
生えた紐を切り
なおも残る根
だからひたすら
手を洗い
白い野
没していく

詩【覆われる昼の共振】

後ろから影が伸びて
覆われる
過去と
過誤
または転倒
あてどない記憶のように
枝葉が育ち
砂漠と化して
渇きの放散なのかもしれない
白いものはなお白く
枠は枠の作用があって
ここにあるだけで風の音を感じること
さやさやさやさや
語りかけて
脱色し

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